衆議院や参議院などの国政選挙のたびに「1票の格差」という言葉を報道で耳にする機会がありますよね。
でも、実際のところ1票の格差とは何なのかよくわからないという人も多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、1票の格差とは何なのか、問題とされる理由や解決策、広島に与える影響について、詳しく解説していきます!
目次
1票の格差とは
まずは、1票の格差とは何かについて解説していきます。
図解で簡単に内容を把握したい場合は、以下のInstagram投稿をぜひご覧ください。画像の右下から保存をしておくと、後から簡単に見返せますよ!
要は選挙における地域格差
1票の格差とは、文字通り同じ1票でもその価値が人によって違うという意味です。なぜそんな状態になるのかというと、地域ごとの人口の差が影響しています。
というのも、現在参議院選挙の合区を除き、選挙区は都道府県を跨いでいません。そのため、選挙区によって有権者の人口は当然違います。
また、選挙区によって有権者の人口が違うために、議員1人当たりの有権者数も選挙区によって変わります。これは言い換えれば、議員に当選するために必要な票数が選挙区によって違うということです。
要は、1票の持つ価値に地域格差が生じている事態が、1票の格差という言葉の意味というわけです。
選挙区制について触れましたが、どういう制度なのかよくわからないという人は以下の記事で詳しく解説しているのでぜひ参考にしてみてください!
1票の格差の計算方法
続いて、1票の格差はどうやって計算するのか、その方法についてです。これは、非常に簡単な計算で求められます。
計算過程は以下の通りです。
- 各選挙区の1議席当たりの有権者数を計算
- 1の結果を、対象の選挙区で比較
まず、各選挙区の1議席当たりの有権者数は「有権者数÷議席数」という計算式で求められます。
続いて、1票の格差を比較するために上記の計算結果が「大きい選挙区÷小さい選挙区=1票の格差」という計算をするという流れです。
なお、報道などでは多くの場合、その選挙での1票の格差については「最大で何倍」という表現をします。これは、1議席当たりの有権者数が最多の選挙区と最少の選挙区を比較した数値ですね。
例えば、以下のような3つの選挙区があるとします。
- 選挙区A:有権者4人、議席数2
- 選挙区B:有権者9人、議席数3
- 選挙区C:有権者10人、議席数4
この場合、各選挙区の1議席当たりの有権者数は以下のようになります。
- 選挙区A:4÷2=2
- 選挙区B:9÷3=3
- 選挙区C:10÷4=2.5
このとき、1議席当たりの有権者数が最も多いのは選挙区Bで3人、最も少ないのは選挙区Aで2人ですね。これは言い換えると、選挙区Aなら2人の得票で当選できるけれど、選挙区Bでは3人の得票が無いと当選できない、ということになります。
この状態で選挙を行った場合の1票の格差は、3÷2=1.5という計算式から、最大で1.5倍ということになります。つまり、選挙区Aの有権者の1票は、選挙区Bの有権者の1.5倍の価値があるというわけです。
1票の格差が違憲になる基準は?
1票の格差の計算方法がわかっても、実際にどのくらいの数値になると問題になるのか、よくわからないですよね。
明確に何倍を超えたら憲法違反、という規定はないのですが、目安として2倍を超えると違憲と見られるとされています。
なお、1票の格差に関する判決としては、「合憲」と「違憲」以外に「違憲状態」というものがあり、多くの場合で合憲もしくは違憲状態の判決が出ています。
この違憲状態というのは、簡単に言うと「選挙の段階での1票の格差は大きすぎて違憲である。しかし、今回の選挙結果は有効とするから次回からは是正してね。」という判決になります。
違憲状態のままで放置すると違憲になるため、格差是正に必要な合理的な期間のうちに是正するよう求める判決という見方で概ね大丈夫です。
違憲状態についてもっと知りたい!という人は、以下の記事でわかりやすく解説しているのでぜひ読んでみてください!
1票の格差による問題点とは
1票の格差については何となくわかったけど、結局何が問題なの?そんな疑問に引き続きお答えしていきます。
1票の格差による問題点としては、以下の3点が挙げられます。
- 有権者の権利が不平等になる
- 少数意見が実際よりも強く見える
- 高齢者の票が強くなる
それぞれについて詳しく見ていきましょう!
有権者の権利が不平等になる
1票の格差が持つ1つ目の問題点は、有権者の権利が不平等になるということです。
そもそも、以下のように日本国憲法では法の下の平等が定められています。
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
日本国憲法第十四条1項
これに基づいて、選挙の4原則のうち「普通選挙」と「平等選挙」というところで、18歳以上の国民は全員平等に1票を持つことになっています。
しかし、1票の格差があると、「ある選挙区での1票は別の選挙区での2票分」のように、皆が平等に1票をもっているとは言えない状態になってしまうのです。
少数意見が実際よりも強く見える
1票の格差の2つ目の問題点は、少数意見が実際よりも強く見える可能性があるということです。
1票の格差がある状態は、言い換えれば、場所によっては少ない票数でも特定の候補を当選させられるという状態になります。
そのため、全員が平等に1票分を持っていれば当選できなかったけれど、1票の格差があるから当選できたという議員も出てくる可能性がある訳です。もちろん逆も然りですね。
これにより、極端な話をすると、「1議席当たりの有権者が少ない選挙区ばかりで議席を狙う」ことで、実際の国民全体の意思とは異なった意見を大多数の意見かのように見せることが可能なのです。
高齢者の票が強くなる
1票の格差の3つ目の問題点は、高齢者の票が強くなっていくとみられることです。
というのも、1票の格差が生じる原因は選挙区ごとの人口の差ですが、年々地方の人口は減少しています。
しかし、後ほど詳しく触れますが、地方の議席を減らしすぎると今度は地方の声が一切国会に届かなくなる危険が生まれます。そのため、地方にも議席を確保する必要があるのです。
この話を考える上で、重要なのが地方に議席が確保されるという点です。
若者よりも高齢者の方が地方に多く残っていることから、実質的に地方の議席が高齢者のための議席になる危険性があるというのがこの話の要点となります。
結果として、実際の人口分布よりもさらに高齢者層の違憲が政治に強く反映されやすくなってしまうという恐れがあります。
1票の格差を解決する方法とは
それでは、いったい1票の格差を解決するにはどうすればよいのでしょうか?
実際に行われている解決方法として、以下の2つがあります。
- 合区の設置
- アダムズ方式の導入
それぞれについて解説していきますね。
合区の設置
合区とは、参議院議員選挙で導入されている都道府県を跨いで1つの選挙区とする制度です。現在は、島根県と鳥取県、高知県と徳島県がそれぞれ2議席の合区となっています。
もともと、日本の選挙区制では1人別枠方式というものが導入されていました。これは、各都道府県に1つ以上の選挙区を設置する、という制度です。
しかし、1人別枠方式では人口の少ない都道府県にも他と同様の選挙区を確保することから1票の格差を助長する原因となることが問題視されてきました。
そのため、2015年に公職選挙法が改正され、1人別枠方式は廃止されて、2つの合区が誕生したという経緯です。
このように、隣接する人口の少ない都道府県を併せて1つの選挙区とすることで、選挙区ごとの有権者人口の均等化を進め、1票の格差是正につなげています。
アダムズ方式の導入
アダムズ方式とは、各都道府県の人口を特定の数で割り、計算結果(小数点切り上げ)の合計を小選挙区の定数と一致させる、という選挙制度です。
アダムズ方式という名前は、この制度を唱えた第6代アメリカ大統領のジョン・アダムズに由来しています。
このアダムズ方式は、議席を各都道府県の人口に応じて分配するため、各選挙区の人口の差から生まれる1票の格差を是正する上で有効だとされています。
アダムズ方式の詳しい計算方法や計算例、特徴については以下の記事でわかりやすく解説している出のぜひご覧ください!
アダムズ方式とは?計算方法やメリットデメリットをわかりやすく解説
日本では、2016年に公職選挙法が改正され、2020年の国勢調査の結果をもとに、次回の衆議院選挙から導入されます。
次回衆議院選挙は、衆議院の解散が無ければ2025年です。
小選挙区についてはいわゆる「10増10減」、つまり10の小選挙区が合併で無くなって10の小選挙区が新しく設置される見込みです。
広島でもこの影響を受けるので、後ほど詳しく解説していきます。
1票の格差が残り続ける理由
1票の格差は人口の増減によって生じるものではあるものの、解決策がいくつかあることも述べてきました。
しかし、ここまでに挙げた解決方法にも欠点があり、一概にとにかく導入を繰り返せばいいというわけでもないという事実もあります。
例えば、以下のような欠点が挙げられています。
- 地方の声が政治に反映されない
- 新人・無所属候補が出馬しにくくなる
そこで、ここからはなぜ1票の格差がなかなか解消されないのか。その理由を見ていきましょう。
地方の声が政治に反映されない
まずは、1票の格差だけに気を取られていると、地方の声が政治に反映されなくなる可能性があるという点です。
1票の格差を是正しようと思うと、どうしても人口の多い都市部の議席数を増やすことになり、逆に人口の少ない地方の議席数は減っていくこととなります。
その結果、地方選出の議員が減っていき、都市部の声を聞く議員ばかりになってしまい、都市部のことばかりを考えた政治になってしまう可能性があるのです。
もちろん、これらに対する是正策も考えられています。
例えば、参議院の選挙区が合区となった島根・鳥取選挙区と高知・徳島選挙区については、特別枠という制度が導入されました。
これは、2県が合区になったことでいずれかの県から候補者が擁立されないことを懸念して、これらの県の候補者を優先的に比例代表で当選させられる、という制度です。
人口比で考えると地方の声が大きくなりすぎる可能性があったり、逆に地方の声が届きにくくなったりと、なかなか難しい問題ですね。
新人・無所属候補が出馬しづらくなる
もう1点は、新人候補が出馬しづらくなる恐れがあるということです。
というのも、合区等によって選挙区が広くなると、当然選挙活動を行う範囲が広くなるため、移動コストが増えたり、地域ごとに事務所を複数持つ必要が出てきます。
さらに、現役の議員であれば政治活動として選挙期間以外も街頭演説などが可能ですが、新人候補の場合は選挙期間以外は活動が大きく制限されます。
これらの要因から、資金力や地盤などの面で不利な新人候補や無所属候補が立候補を断念せざるを得ない場面が出てくる可能性が危惧されているのです。
実際に1票の格差ってどのくらい?
1票の格差とは何かがわかってきたところで、実際のところどのくらいの格差が生まれているのかが気になってきた人もいるかもしれませんね。
そこで続いては、直近の事例を見ていきましょう。
2021年の衆議院議員選挙
2021年に行われた衆議院議員選挙では、1票の格差は最大で2.08倍でした。前回の衆院選と比較すると0.1ポイント増加していることになります。
このとき1議席当たりの有権者数が最少だったのは鳥取1区、最多だったのは東京13区となっています。
各県で弁護士グループが計16件、1票の格差が違憲ではないかと訴訟を起こしており、高等裁判所では現段階で9件については合憲、7件が違憲状態であると判決を出しています。
そして2013年には最高裁で15人中14人の裁判官の判断で合憲であると最終判決が出されました。なお、1人は違憲であるとしています。
ちなみに、過去の衆議院選挙の1票の格差の推移は以下のグラフのようになっています。
参考:https://mainichi.jp/articles/20201116/k00/00m/040/211000c
4倍を超えている1972年と1980年については違憲判決が出ており、これを受けて是正されていっていることが見て取れますね。
2022年7月の参議院議員選挙
2022年7月の参議院議員選挙では、1票の格差は最大3.03倍でした。前回比で0.03ポイント増加したことになります。
この際の1議席当たりの有権者人口が最も多かったのは神奈川選挙区、最も少なかったのは福井選挙区でした。
この選挙についても、全国で弁護士グループが14の高等裁判所・高等裁判所支部に違憲であるとして訴訟を起こした結果、2023年10月18日には最高裁が合憲との判断を下しました。
参院選の過去の1票の格差の推移のデータは以下の通り。
参考:https://www.nippon.com/ja/currents/d00150/ など
1995年と2016年の大幅に1票の格差が是正されている年には、選挙区の再編が行われています。合区も含めて、選挙区を適切に割り振りなおすことの意味が分かりますね。
広島も1票の格差是正の影響が?
ここまで1票の格差について解説してきましたが、実は広島にもその影響があります。
2022年以降の衆議院議員選挙からは、広島でもアダムズ方式の導入に伴う選挙区の再編、いわゆる10増10減の影響を受けて選挙区の再編が行われます。
具体的には、選挙区の数が1つ減ることとなっています。現在の広島4区が解体され、他の選挙区に分割して統合される見込みです。
詳しくは、こちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひご覧ください!
1票の格差をうまく是正する方法に期待
1票の格差問題について、その内容や解決策について解説してきました。なぜ国政選挙のたびに訴訟が起こるのか、という疑問は解決されたでしょうか?
1票の格差は、本来みんなが平等に持っているはずの1票の概念が覆されるもの。しかし、安直に数合わせに動くと、地方を無視した政治の危険などが生じます。
今後、是正のためのより良い方向に動いていくことが望まれますね。
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よくある質問
1票の格差って何?
選挙区ごとの有権者人口の差によって、1議席当たりの有権者数に違いが出ること。
言い換えれば、当選するために必要な得票数が変わることであり、どこの選挙区に住んでいるかによって持っている1票の価値が変わってしまうことになります。
1票の格差の何が問題?
1票の格差の問題点は大きく3つ。
1つ目は、人によって持っている1票の価値が変わることで、憲法にも明記されている法の下の平等が崩されてしまうということ。
2つ目は、地方など1票の価値が重い地域の意見が、例え少数派であっても実態以上に強く見えてしまうこと。
3つ目は、地方の票が強くなる傾向があり、地方に残り続ける人には高齢者が比較的多いことから、高齢者の票が強くなる恐れがあること。
1票の格差の解決策は?
1票の格差の解決策としては、「合区」と「アダムズ方式」の2つの制度があります。
合区とは、参院選にて隣接する有権者人口の少ない都道府県を跨いで1つの選挙区とする制度のことです。現在は島根・鳥取選挙区と高知・徳島選挙区が2015年から合区となっています。
アダムズ方式は、人口比率によって選挙区を設置する計算方法です。元々日本では、各都道府県に1つ以上の選挙区を設置する1人別枠方式が導入されていましたが、これを撤廃して完全に人口に基づいて選挙区を割り振るという制度になります。